近年、キャリアアップを目指す看護師から注目されている「専門看護師」。日本看護協会が定める認定審査に合格し、高い水準の看護を実践できると認められた看護師です。
患者や家族に対してケアを施すだけでなく、他の看護師の教育や外部の医療機関で働く人びとをコーディネートし、幅広い視点から質の高い看護を提供しています。
難易度が高い資格ではありますが、病院外と連携する役割を担う専門看護師は、通常の看護師では得られないやりがいを手にすることができます。
今回はそんな専門看護師の概要と資格の取得方法についてご説明します。
専門看護師になる方法
専門看護師になるには、日本看護協会が定める認定審査に合格しなければなりません。認定審査を受けるには、5年以上の実務経験と看護系大学院の修士課程で単位を取得する必要があります。
よって、専門看護師を志す場合は、学費の負担や離職などいくつかのデメリットが発生する場合があります。
キャリアアップ支援に力を入れている大規模病院であれば、学費を全額援助してくれたり職場に在籍したまま休職することを認めてくれたりと取得しやすい環境が整っています。
しかし、そのような制度を導入していない病院に勤務する看護師は、学費を自己負担したり、職場を退職したりするリスクを負わなければなりません。
また、取得した後も 5年ごとに更新審査 があるため、資格を保持し続けることは容易ではありません。
同じように看護師の専門性を証明する資格に「認定看護師」がありますが、こちらは専門看護師とは異なり臨床の場でエキスパートとして活躍することが期待されています。
よって、組織を横断して調整することよりも焦点を絞った専門領域にて知識や技術を発揮する役割が与えられています。
専門看護師の特定分野
専門看護師の特定分野は、全部で11種類あり受験の際にはこれらの分野から一つだけ選択します。
しかし、どの分野でも選択可能というわけではなく、実務経験が3年以上ある分野に限ります。
がん看護(登録者数:713名)
がん患者やその家族に対して、質の高い看護を提供します。病気の治癒だけでなく、QOL(生活の質)を向上させるための看護が求められるため、患者や家族の身体的・精神的苦痛を理解したうえで周囲の関係者に働きかける必要があります。
精神看護(登録者数:265名)
精神疾患に苦しむ患者に対し、高い水準の看護を提供します。精神科病棟での活躍はもちろんのこと、一般病棟においても患者や家族の心のケアを行います。
病気と向き合う人びとは、身体的な苦しみだけでなく精神的な不安を抱えていることが多いです。そのような状態を緩和できるよう周囲のスタッフと連携して対応策を練ります。
地域看護(登録者数:25名)
看護が求められる場所は医療機関だけではありません。企業や学校、在宅などの保健医療福祉分野において、地域や行政と連携しながら質の高いケアを施します。
老人看護(登録者数:107名)
高齢者の健康をサポートする老人看護の専門看護師は、一般病棟や特別養護老人ホーム、訪問看護ステーションなど様々な場所で活躍できます。
患者に対するケアだけでなく家族の精神的負担を減らし、様々なスタッフと協働して看護体制を整えます。
小児看護(登録者数:184名)
難病に苦しむ幼い子どもやその家族に対して、適切なケアを施しているのが小児看護の専門看護師。
患者は成長過程にある子どものため、周囲の大人が発する言葉や行動に影響を受けやすくなっています。
また、大人でさえも受け入れがたい病気と向き合っているため、精神的に不安定になることが多々あります。よって、子どもの視点や気持ちに寄り添った看護が求められます。
母性看護(登録者数:64名)
女性と母子に対する専門看護を行います。妊娠や出産だけでなく、女性のライフサイクル全般において母性の成長・発達・成熟を促します。
昨今、女性の社会進出により晩婚化が進んでおり、妊娠のタイミングやリスクについて悩む女性が急増しています。また、子どもを授かっても育児ノイローゼになったり、虐待を行ったり母子の関係に亀裂が生じているケースも多々あります。
よって、母性看護の専門看護師は、これらの課題を抱える人びとに対し、身体的・精神的・社会的な面から支援を行います。
慢性疾患看護(登録者数:149名)
生活習慣病などの慢性疾患で苦しむ患者に対し、病気の悪化を防ぐための管理や生活の質を向上させるためのケアを行います。慢性疾患は領域が広いため、あらゆる診療科での活躍が期待されます。
急性・重症患者看護(登録者数:223名)
生命危機状態にある患者や家族に対して、適切なケアを施し、他の医療スタッフの調整役として迅速に対応する役割が課せられています。
集中治療室や救命救急センターなどで、最適な医療を提供するため、専門的技術と調整力を発揮します。
感染症看護(登録者数:44名)
感染症の発生状況を把握し、他のスタッフや施設と連携することで、感染症の拡大防止や患者のケアを行います。
適切な処置が施さなければ、集団感染に発展する危険性があるため、感染症看護の専門看護師は、重大な任務が課せられていると言って良いでしょう。
家族支援(登録者数:52名)
病気や怪我のケアが必要な人は、患者だけではありません。患者をサポートする家族も身体的・精神的な面で苦痛を強いられます。
患者の苦しむ姿に心を痛めたり、在宅療養における適切なケアが分からなかったりと悩みは尽きません。そんな家族に対してサポートを施すのが、家族支援の専門看護師です。
精神的な痛みを緩和したり、家族のセルフケア能力の向上に貢献して患者の回復を促します。
在宅看護(登録者数:36名)
在宅看護の専門看護師は、患者や家族が、個々の生活を大切にしながら療養生活を送れるようにサポートします。
なかには、終末期治療を必要とする患者もいるため、苦痛を緩和しながらその人らしい生き方を送れるよう、ケアシステムを構築します。
参考:日本看護協会「分野別都道府県別登録者数一覧」より(2017/4/23登録者数更新)
近年注目されている特定分野とは
専門看護師は、どの分野においても高い需要があり優劣はありません。しかし、少子高齢化や晩婚化、リストラによるうつ病患者の急増など近年の社会情勢を踏まえると「精神看護」のニーズはますます高まっていくことが予想されます。
認知症を患う高齢者やその家族、不妊症治療に悩む夫婦、長時間勤務やリストラで心を病んだサラリーマンなど精神的な面でサポートを要する人は数多くいます。
また、がんや心臓病など重篤な病気で苦しむ人びとは健康的な生活を奪われたことで精神的に不安定になっています。
よって、心のケアはどのような病においても必要な支援であり、昨今のような変化の激しい時代においては需要の高まりが予想されます。
まとめ【専門看護師の資格を取得して、市場価値の高い看護師へ!】
様々な領域で質の高い看護を提供する専門看護師。受験に際しては、実務経験に加え大学院の修士課程卒業が条件であるなど、多くのステップが必要になりますが、自身のキャリアアップを考える人にとっては有益な資格となるでしょう。
また、転職の際には他の応募者よりも高く評価されるはずです。
専門看護師の登録者数は、2017年4月現在で1862名。国内で働く看護師・准看護師も含めおよそ142万人いることを踏まえると、資格保有者は看護師全体の1%にも満たないのです。
よって、市場価値は非常に高く転職にもプラスに働きます。配属先の優遇はもちろんのこと人気病院への転職も叶う可能性があります。
しかし、待遇に関しては、資格の保有が有利になる病院ばかりではないため注意が必要です。専門看護師の資格取得は、自身のキャリアアップとやりがいを手にするための手段だと捉えるようにしましょう。
参考:厚生労働省「平成26年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概要」より