退院調整・支援看護師(以下、退院支援看護師)とは、外部の医療機関や介護施設と連携して、在宅でも患者が安心して療養できるようサポートする支援員です。
2008年の診療報酬改定で新たに新設された「退院調整加算(現在は廃止)」により、急性期病院を中心に退院支援看護師の配置が始まりました。
臨床よりも支援やマネジメントが得意な人におすすめな業務ですが、まだ運用年数が短いため退院支援の実態をきちんと把握している人は少ないでしょう。
そこでこの記事では、退院支援看護師の仕事内容や役割、なるために必要な経験などを解説します。
みき
めぐみ
ジョブス
退院支援看護師の設置状況とは?
200床以上の中規模から大規模病院であれば、60%以上の病院で退院調整看護師が配置されています。
また、特にがん診療拠点や救命救急センターなどの高度医療を提供する病院に設置率が高い傾向があります。
以下は、退院支援看護師の所属する部門になります。
- 退院調整部門
- 退院調整部委員会
- 地域医療連携室
- 退院支援看護科など
病院によって名称は異なり、病棟の特性に合わせた入退院支援ができるように各病棟に最低1人配置されていことが多いです。
病院の規模にもよりますが、各病棟に配置できない場合は他の業務と兼務したり退院支援部門として総括的に介入することもあります。
医療ソーシャルワーカーとの違いとは?
200床以下の小規模病院では医療ソーシャルワーカーが退院支援を行っているケースが大半です。
医療依存度が高く退院後も医療処置を要する場合は退院支援看護師が、経済的問題の解決や社会復帰への支援を要する場合は医療ソーシャルワーカー、というように役割分担されている病院も多くあります。
退院支援看護師、医療ソーシャルワーカーともにそれぞれの専門分野を活かし、お互いに連携を深めて退院支援の中核を担います。
みき
めぐみ
退院支援が必要な患者とは?
様々な病態で入院する患者には、あらゆる背景があります。
入院によりADLや認知面の低下を来たし、現状では自宅での生活が不可能なケースや、在宅酸素のような医療処置を要することになったケースなど、主に入院前と状態が変化した患者が対象になります。
元々要介護状態で介護サービスを利用していた患者でも、入院によりさらに介護度が上がった時は、支援内容の再検討が必要になります。
みき
めぐみ
退院支援看護師の仕事内容と役割とは?
診療報酬改定の中で、退院調整加算の廃止後、2016年に新設された退院支援加算から、2018年に入退院支援加算に名称が変更。さらに入院時支援加算が新設されました。
この改定により今までは退院に向けたサポートが中心でしたが、外来時からの退院支援に対してもサポートを行うようになりました。
入院前から退院後の在宅療養に至るまで、切れ目のないシームレスな支援の提供が求められています。
また、入院支援と退院支援の業務を分けている病院もあるので、病院の規模や導入状況によっては仕事内容の範囲が異なります。
以下は、退院支援看護師の主な仕事内容と役割になります。
1、退院支援の必要性をスクリーニング
入院患者すべてに退院支援が必要なわけではないため、退院支援の介入を要するか、まずスクリーニングを行います。
病状に加えて、入院前の普段の日常生活動作状況、家族の介護力などから判断します。
入院時の最初のスクリーニングは、主に病棟看護師が行う病院もありますし、病棟看護師からの情報を基に、退院支援看護師がスクリーニングする場合もあります。
病院によって、誰がスクリーニングするかは異なりますが、入院後早期に評価し介入を進めることが、その後の退院支援の進捗に大きく関わってきます。
2、患者・家族との面談、情報収集
退院支援を行うためには、入院時に収集した情報をより掘り下げ、自宅の環境や経済的状況など様々な情報収集が必要になります。
入院初期は急性期のため身体的状況にばかり集中するので、患者・家族ともに退院後の生活について考える余裕はありません。
そこで、早期に患者・家族との面談を行うことで、退院後の生活についての思いや要望について聴き出し、退院後のイメージを持ってもらいつつ意思決定を支援することが必要です。
3、多職種との情報共有、カンファレンス
退院後様々なサービスが必要になると、ホームヘルパーやケアマネージャー、医師、訪問看護師、リハビリスタッフ、社会福祉士と、多職種が関わります。
多職種による支援を行うために、院内スタッフのみならず、地域の医療機関や介護施設との情報共有が必要です。
関係するスタッフや患者・家族によるカンファレンスを行い、患者・家族の要望や不安な点、必要な支援についてそれぞれの視点から意見を出し合い問題点を抽出します。
退院後の必要な支援を明確にし、スタッフ・患者間の意思統一を図るためにも、カンファレンスは非常に重要です。
また、より良い支援を行うため、日頃より地域の医療従事者との円滑な関係を築き、連携を強固にしておくことも退院支援看護師の大切な役割です。
4、必要なサービスの調整、マネジメント
患者の意思決定や状態、カンファレンスでの決定事項に基づいて、細かな部分までサービスの調整を行います。
医療依存度が高い患者の場合、週に何回訪問看護師が必要か、訪問入浴は可能か、デイサービスやショートステイの利用の有無など、調整する事項は多岐にわたります。
介護用品や医療機器を利用する場合は、これらの業者との調整も要します。
このように、退院支援看護師には、退院後の生活が困らないようシームレスな支援を提供するための総合的なマネジメント力が必要になります。
5、書類作成・事務処理
看護師全般に言えることですが、看護記録や看護サマリー、各種アセスメントシートなど書類作成や記録物に追われがちです。
退院支援看護師は、電話や面談、カンファレンスにより多職種と連絡を取り合うことが多く、その都度記録に残さなければいけません。
さらに、各種手続きの申し込み書類や、紹介状、サマリーの手配など、扱う書類が多く事務的処理も病棟看護師よりも多くなりがちです。
どれも重要な書類であり、診療報酬加算の要件となる分野でもあるので、書類の不備がないよう正確で綿密な事務処理も大切な業務内容の一つです。
みき
めぐみ
退院支援看護師になるには?資格は必要?
退院支援看護師として配属されるのは、主に主任や看護師長経験のあるベテラン看護師です。
退院支援看護師になるには、特に必要な資格はありませんが、介護保険、診療報酬、在宅医療の処置の知識が必要となるので、ある程度の経験を積んだ看護師でないと務まりません。
スキルアップを図るには、各都道府県の看護協会で開催されている退院支援看護師養成研修を受講するという方法もあります。
他にも、訪問看護認定看護師や、地域看護専門看護師、在宅看護専門看護師のように、退院支援に関連した分野の認定・専門看護師資格を保有している場合、より強みとすることができます。
みき
めぐみ
ジョブス
退院支援看護師のお給料とは?手当はあるの?
病院にもよりますが、そもそも経験10年以上の看護師が抜擢されるので、年収550万円から650万円くらいになります。
退院支援部門に特別に手当があるわけでないので、他の診療科で働く看護師と大きな差はありません。
週休2日制で日勤なので、夜勤手当が付かない分病棟勤務よりも若干給料が下がる場合もありますが、継続して働きやすい部門です。
みき
めぐみ
退院支援はこんな看護師に向いている
退院後の生活を見据えて支援を行う退院支援看護師は、どのようなタイプの看護師が向いているのでしょうか。
- 患者・家族とのコミュニケーションが好き
- 他部門との連携・調整・マネジメントが得意
- きめ細やかな観察や配慮ができる
退院に向けて、患者さんが望む形での支援ができた時は、とてもやりがいを感じられます。サービスの調整など苦労も多いですが、患者さんもご家族も満足されている姿は、私まで嬉しくなります。
退院支援を行う時は、自分の家族だったらどうしてあげたいかなぁと考えながら関わるようにしています。そうすると、細かな部分にまで気付き、痒い所に手が届くケアを提供できると思いますよ。
患者・家族が希望する退院支援を行うには、細かな情報収集や要望の確認が必須です。
時には、患者の経済状況や家族関係といった踏み込みにくい部分の情報も必要になるので、コミュニケーションを取ることが好きなタイプの人に向いています。
その上で、必要になるサービスをアセスメントし調整するために、院内外問わず多職種との連携や調整は欠かせません。
多方面への連携を要するので、面倒と思わず調整やマネジメントにやりがいを感じらる人におすすめの部門です。
逆に、向いていないタイプの看護師は次の通りです。
- コミュニケーションが好きではない
- 粘り強く待つことが苦手
- 臨床での看護がしたい
急に自宅退院から施設入所に希望を変更されたり、いつまでもハッキリと意思表示されない患者さんや非協力的な家族には、正直困ってしまいます。
患者さんやご家族と話す機会は多いのですが、直接ケアを行うことがないので、物足りなく感じます。退院支援も大事な仕事ですが、やはり臨床のほうが好きです。
退院支援看護師は、患者・家族の要望を把握し多職種と連携を図るため、多くの人とのコミュニケーションが必須です。
コミュニケーションが苦手な人には辛い職場になるばかりか、様々な医療従事者との連携がおろそかになり退院支援が遅れてしまう危険性も生じてしまいます。
また、退院支援は、スムーズに進む事例ばかりではなく、患者の意思決定が進まない、コロコロと考えが変わる、家族が非協力的、といった困難なケースにも遭遇します。
なかなか意思決定が進まない患者にもじっくりと関わり支援を進めることも必要ですし、せっかく調整した支援内容が退院を目の前にして変更になることもあり得ます。
どのような困難な場面でも、諦めずに支援を続ける粘り強さも大切な資質です。
退院支援看護師は、患者・家族と接する機会はよくあるものの、直接的にケアや看護を行っている実感は得られにくいため、臨床のほうが断然好きな人には、物足りない部門となるでしょう。
みき
めぐみ
まとめ:ニーズが高まる退院支援部門!
高齢者が増加の一途を辿る日本の医療の現状の中、病院から在宅へと地域包括ケアシステムの促進が進み、退院支援は今後も発展していく分野の一つです。
在宅に向けて、地域の医療機関や介護施設との連携を図り、必要なサービスや支援をマネジメントする退院支援看護師の活躍は、今後もますます期待されます。
臨床からは離れますが、非常にやりがいがありニーズが高まっている退院支援看護師に、チャレンジしてみませんか。