「チャイルドライフスペシャリスト(以下CLS)」というキーワードがGoogleで検索される回数は月に1000回、年12,000回にも及びます。
小児医療に携わる医療従事者は、CLSの必要性を理解してはいるものの、認定資格の取得ハードルが高いためか、CLSの人数自体かなり少ないのが現状です。
そして、小児医療の専門病院数が全国に21院しかないことからわかるように、小児医療はこれから充実させるべき分野の一つです。
この記事では、CLS取得のために渡米している「唯さん」にインタビューを行い、CLSを取得しようと思った経緯や資格の取得方法、医療現場のニーズなどについてインタビューしてきました。
みき
めぐみ
ジョブス
子ども病院に4年間勤務の後、転職。CLSのいる病院といない病院に勤務した経験からCLSの必要性を強く感じCLSになることを決意。独学でTOEFLのスコアを上げ、アメリカの大学院に合格。現在はオークランドにあるMills Collegeに在学中です。
CLSの役割やニーズとは?
ジョブス
唯さん:CLSはまだ小児医療の現場でも認知度の低い仕事です。
私も子供病院に就職してCLSに出会うまで、CLSという名前を聞いたこともありませんでした。
CLSの役割は多岐にわたっているのですが、簡単に説明すると、病気と闘う子供達とその家族に心理社会的な支援をする専門職で、子供達が主体的に治療に取り組み乗り越えていけるように主に「遊び」を使いながらサポートをしています。
ジョブス
唯さん:CLSが提供する遊びにはいくつかの種類があって、ストレスを緩和するための「セラピュティックプレイ」、病気や治療・処置について説明する「プレパレーション」、医療機器に親しみを持つための「メディカルプレイ」などがあります。
例えば、子供に病気や処置の説明をするときは、その子の発達や性格に合わせて絵本を作成したり、実際の医療機器も交えながら人形を使ってお医者さんごっこをするような形でどんな処置が行われるのかを説明したりします。
処置中も子供がなるべく苦痛に感じないように一人ひとりにあわせた方法でケアをしていきます。
ジョブス
唯さん:実際、CLSの介入後に今まで薬を飲むことを嫌がっていた子供が薬の必要性を理解して薬を飲めるようになったり、CTやMRIなど通常は鎮静剤を使用して行う検査が鎮静剤なしでも行えたりといったこともあります。
私はCLSがいる病院といない病院の両方で勤務していましたが、CLSがいる病院の方が子供達や家族がストレスなく入院生活を送れている印象があります。
ジョブス
CLSと看護師との違いとは?
ジョブス
唯さん:確かにほとんどの病院では、看護師がプレパレーションをしたり家族サポートをしたりしています。
看護師が子供達と一緒に遊ぶこともありますし、そういった点ではよく似ているかもしれません。
でも、CLSと看護師ではもっている知識と技術に大きな違いがあります。
もちろん看護師も小児発達や家族システムなどについて最低限の知識はもっているのですが、CLSはより専門的な知識をもっています。
ジョブス
唯さん:CLSは、発達学や家族システム、遊び、グリーフケアなどの専門知識をもっていて、それらを統合してサポートをしています。
さらにCLSは、ストレスコーピングのアセスメントに長けています。
実際私も、CLSのいない病院で働いていたときにプレパレーションをしたりしましたが、CLSと同じようにケアすることは出来ませんでした。
ジョブス
唯さん:あと、子供達にとって看護師は処置をする側の立場なので時には怖がられることもありますが、CLSは医療ケアを一切しないという点でも大きく違うと思います。
ジョブス
CLSを取り入れる病院が少ない理由とは?
ジョブス
唯さん:そうですね。CLSの認知度が低いこともあってその重要性についてもあまり理解されていないと感じています。
実際の医療現場で子供達や家族の様子をみるとCLSの大切さを感じることができるのですが、それはデータ的な意味では目に見えないものなので理解されにくいのかなと思います。
ジョブス
唯さん:実際、CLSは必要ないと思っている病院もあります。
必要性を感じてもらうことも今後の課題だと思っています。
そもそも2019年現在、日本で働いているCLSは50人に満たない程度なので、取り入れたいと思う病院があっても取り入れられていない状況もあります。
ジョブス
唯さん:認知度の低さも一つの原因だとは思いますが、アメリカに行かないと資格が取れないというハードルの高さが大きな原因だと思います。
ジョブス
CLS取得のきっかけとは?
ジョブス
唯さん:CLSと一緒に働く中でその知識や技術を学びたいという想いはずっとあったのですが、英語が苦手な私にとって留学はとても高いハードルで現実的には考えていませんでした。
でも、CLSがいない病院に転職して、そこで見た子供達や家族の様子に衝撃を受け、CLSの必要性を再認識し「CLSをもっと広めたい」と思うようになりました。
そこで、CLSを広めるにはまずは自分がCLSになるべきだと思い、CLSになることを決めました。
ジョブス
唯さん:他にも、CLS取得の過程で以前から興味のあった幼児教育が学べることも大きな決め手になりました。
ジョブス
唯さん:私はもともと新しいことを始めることがとても好きなので、海外の生活についての不安はほとんどなく、むしろ学びたいことを学べることや新たな生活にワクワクしていました。
ただ、大学院受験のために英語は勉強していましたが、日常的な英会話はほとんど出来なかったため英語については不安しかありませんでした。
英語力の身につけ方とは?
ジョブス
唯さん:そうですね、授業はすべて英語です。
CLSの方の中には語学留学をされた方も多くいらっしゃいますが、私は語学留学はしませんでした。
ただ、大学院の出願要件としてTOEFLという英語の試験で80点以上取らなくてはいけないということだったので、独学で英語の勉強はしました。
あと、TOEFLの勉強が終わった後、オンライン英会話もずっとしていましたよ。
ジョブス
唯さん:期間はトータル7ヶ月ぐらいですね。6月から勉強を始めて1月の試験でようやく80点以上が取れました。
6月は仕事をしていなかったので1日10~12時間くらい勉強していました。
7月~9月の間は仕事をしていたのであまり勉強が出来ず、9月で仕事を辞めて10月からまた勉強を再開しました。その時は1日12時間以上は勉強していました。
実は、9月に初めてTOEFLを受けたのですがその時は52点しか取れず、そのあと必死で勉強しました。留学準備の中でTOEFLが一番大変でしたよ。
ジョブス
唯さん:私は参考書とインターネットの動画サイトなどを利用して勉強しました。
TOEFLはリスニング、リーディング、スピーキング、ライティングの4項目があるのですが、リスニングとリーディングを中心に勉強しました。
初めは問題文すら読めず、リスニングも全く何を言っているのかわからなかったのですが、問題をこなしていくうちに少しずつ問題が解けるようになっていきました。
単語を覚えるだけでも点数があがるので、まずはTOEFLの単語帳を使ったりして基本的な単語だけでも覚えるといいと思います。
大学院を選ぶ基準とは?
ジョブス
唯さん:私はカリフォルニア州のオークランドにあるMills Collegeに在学しています。サンフランシスコやバークリーがバス1本で行ける距離にあります。
ジョブス
唯さん:アメリカに大学院はたくさんありますが、CLSの単位が取得できる大学院は多くありません。
「Association Child Life Professional」というアメリカのCLSのホームページや日本のチャイルドライフスペシャリスト協会のホームページに単位が取得できる大学院の一覧があります。
私はインターネットで日本のCLSの方の記事を探し、その方々が卒業された大学院をピックアップしていきました。
そして、ピックアップした大学院のホームページで入学要件や授業内容を見て受験する大学院を決めました。
私の場合は応募時期の関係等もあり実際に受験したのは1校ですが、最終的には2校に絞って準備を進めました。
また、知り合いのCLSに相談にのってもらったりもしました。
ジョブス
唯さん:出願書類などを作成するにあたり留学エージェントを使用しましたが、大学院探しは自力で行いました。
大学院の出願書類と受験内容とは?
ジョブス
唯さん:アメリカの大学院は日本の大学と違って一斉受験のようなものはなく、書類審査と面接が一般的です。
恐らくどこの大学院も履歴書、志望動機や自己アピールなどを書いたエッセイ、成績証明書、推薦状2~3通、TOEFLのスコアが必須だと思います。
CLSの場合、他に小児科でCLSのもとでのボランティア経験や発達学の授業の単位が要求されることもあります。
ジョブス
唯さん:受験する大学院が決まると同時に、留学エージェントが出願までのスケジュールを立ててくれたので、それに沿って準備を進めていきました。
私は大学院受験を決めてから出願まで7か月しかなかったため、かなりハードスケジュールでした。
ジョブス
唯さん:TOEFL80点はアメリカ人の平均点より少し低いくらいの点数で、英語が苦手な私にとって短期間でこのスコアをとることはかなり難しく、一旦仕事を辞めて英語の勉強に集中しました。
TOEFLの勉強と並行して履歴書、エッセイの作成にも取り掛かりました。
ジョブス
唯さん:履歴書とエッセイは留学エージェントに添削してもらいながら仕上げました。
その後、出願してから2〜3週間ほどで大学院の教授から連絡があり、スカイプで面接をしました。
ジョブス
唯さん:面接では「なぜCLSになりたいのか」「今までの経験や達成したこと」「CLSの元でのボランティア経験の有無」「アメリカでサポートしてくれる人はいるのか」「アメリカでは学内に住むのか学外に住む予定か」「何か質問があるか」を質問されました。
とても和やかな雰囲気でリラックスして出来ました。
ジョブス
面接の時にアメリカでのサポートがないと答えたのですが、それを聞いて教授が日本人の卒業生と在学中の生徒と連絡を取れるようにして下さりました。
なぜCLSになりたいのかなどの典型的な質問もされましたが、それよりも入学後はどうしていくのかというような質問が多かった印象です。
ジョブス
唯さん:30分程度でした。オークランドと日本では17時間の時差があるので、私は朝の6時から面接をしました。
面接直後に教授に連絡があり、入学後のサポートのためにと同じ大学院を卒業した日本人を紹介してもらったりしていたのですが、面接から2か月ほどで正式な合格通知が届き渡米にむけての準備を始めました。
ジョブス
唯さん:直接合格、不合格ということは言われませんでした。
ただ、面接後に教授から英語のスピーキングが心配だからアメリカに来る前にスピーキング力を改善して欲しいといった内容の連絡が来たりしていました。
また、私は小児科経験の証明書が必要だったのですが、すでに退職していたため書類をもらうことが難しく、そのことで面接後も教授と連絡を取り合っていました。
その時に教授から書類があれば正式に合格を認められると言われました。ちなみに、教授が直接病院へ連絡をしてくださって証明書類を手に入れることが出来ました。
ジョブス
入学条件に満たない場合は?
ジョブス
唯さん:日本ではCLSのもとでのボランティアは難しい旨を教授に説明し、小児科看護師としての経験をボランティア経験として良いことになりました。
また、発達学の授業は教授がオンラインで受講できるクラスを教えてくれたので渡米前にその授業を受けました。
入学条件に満たなくても、教授に連絡をとり相談してみると柔軟に対応してもらえると思います。
ジョブス
ビザの取得方法は?
ジョブス
唯さん:学生ビザです。申請時に入学許可書が必要なのですが、許可書に大学院の方のミスで署名がなく、書類不十分で面接後すぐにビザの発行とはなりませんでした。
ただ、その後すぐにサイン入りの入学許可書が届いたので再申請し、無事にビザを取得することが出来ました。
ジョブス
唯さん:ビザ申請時に面接があるのですが、その場ですぐに許可が下ります。面接から1~2週間後にビザが届きました。ビザの面接はとても和やかで、2,3分で終わりましたよ。
住居の見つけ方とは?
ジョブス
唯さん:私の通っている大学院は学内に大学院生専用のアパートがあるのでそこに住んでいます。
入学決定後、大学院から学内の寮やアパートのお知らせメールが来るのでそれを参考に決めました。
ジョブス
唯さん:住居の他にも医療保険や携帯電話のSIMカードなど生活に欠かせないものは大学院で準備してくれたので安心して渡米することが出来ましたよ。
CLS取得に必要な単位とは?
ジョブス
唯さん:大学院ごに学位取得の必要単位に多少の違いはあると思うのですが、CLSの受験資格を得るためにはチャイルドライフの技術について学ぶチャイルドライフの授業、発達学、遊びについての授業、家族システムの授業、グリーフケアの授業、研究、その他に医療用語や心理学などの単位が必要になります。
加えて、600時間以上の病院でのインターンシップが必要になります。
また、必須ではないのですが多くの病院がインターンシップをする前に病院実習をすることを要求しています。
なので、大学院で授業を受けながら実習をしてインターンシップをすることになります。
ジョブス
唯さん:2年弱程度で単位が全て取得できると思います。
私の通っている大学院では2年で卒業出来るようにプログラムが組まれており、私の場合は1年目に授業→夏休みに実習→2年目秋学期に授業→春学期にインターンシップという流れになりそうです。
大学院によっては3年かかるところもあります。
ジョブス
大学院の授業内容とは?
ジョブス
唯さん:授業はすべて子供に関わることなのでとても楽しいです。
私の通っている大学院では幼稚園実習と並行して授業があるので、実際の子供達の様子と結びつけながら発達や遊びについて学ぶことができ、とても勉強になっています。
医療用語の授業などはレクチャー形式ですが、基本的にはレクチャーとディスカッションが混在したような授業が多いです。
ジョブス
唯さん:教授も積極的に学生の意見を求めますし、学生もどんどん質問したり意見を言っていますね。
CLSの授業では実際に教授の知り合いの子供にプレパレーションをしたりもしました。
ジョブス
唯さん:初めの頃は5割程度しか教授の話していることがわからなかったのですが、クラスメイトがノートをシェアしてくれたり、わからないところはその場で書いて教えてくれたりと助けてくれたのでなんとか理解することが出来ました。
携帯電話の翻訳機能もよく使っていました。
ディスカッションも初めの頃は参加できなかったのですが、一回の授業で最低でも一回は発言すると決め、少しでも発言するようにしているうちに徐々に参加出来るようになりました。
教授もクラスメイトもみんな優しいので、つたない英語で話していても温かく見守ってくれています。
ジョブス
授業の過程で大変だった事とは?
ジョブス
唯さん:初めのころはレポートを書くことがとても大変でした。
友人に文法や言葉のチョイスを添削してもらいながら書いていました。大学内でもレポートの英語を添削してくれます。
それからどの授業もリーディングの課題があるのですが量が多くて読むのが大変でした。
ジョブス
唯さん:他にも、ほとんどの授業はレポートやプロジェクトによる評価なのですが、医療用語の授業はテストがあったので大変でした。
私は看護師なので内容は簡単に理解できますが、医療用語をすべて英語で説明するのが大変でした。
1日のスケジュールとは?
ジョブス
唯さん:私は週3日の幼稚園実習に加えて学内アルバイトとして幼稚園で働いているため、午前中は幼稚園で過ごしています。
8時から13時まで幼稚園、午後、もしくは夜に授業を受けるといった生活です。
授業は一学期に4~5個とっています。授業時間は様々ですが、1時間半~3時間程度です。
忙しい日は幼稚園のあとに20時まで授業があったりしますが、幼稚園だけで授業がない日もあります。
ジョブス
唯さん:宿題は多いですが、日本で看護師として働いていたころよりも自由な時間がたくさんあり、比較的のんびりと過ごせています。
夜も自分次第ですが、遅くても0時前には眠れるので、夜勤をしていたころと比べるととても健康的です。
ジョブス
唯さん:私は平日の授業後にのんびりしたいという思いもあって、休日にまとめて課題をやることが多いです。
課題がない時には、買い物に行ったりお出掛けすることもあります。
ミートアップという集まりがあり、英語力をあげるために英語、日本語それぞれで会話をするミートアップに参加したりもしています。
そこで出会った日本人の友達と観光したりもしていますよ。
ジョブス
唯さん:私はペーパードライバーで運転ができないので車は持っていません。
ただ、周りの友人はみんな車を持っています。
移動は学校からバスカードが支給されており無料でバスに乗れるのでバスを利用してますね。
ルームメイトが買い物に行くときに一緒に車に乗せてもらったりもしています。
バスで行けないところに行くときはuberというタクシーの安いバージョンみたいなものを利用しています。
日本と海外の違いとは?
ジョブス
唯さん:大きなことから小さなことまで色々ありますが、一番は食生活の違いに驚きました。
日本ではポテトチップスやクラッカー類はおやつですが、アメリカではランチにポテトチップスを食べていたり、逆におやつにパンを食べていたりします。
ジョブス
唯さん:私は自炊しているので基本的には日本食を食べていますが、いつもアメリカの食事に驚いています。
他にも、赤ちゃん用のミルクを水で作ることに驚きました。
粉ミルクを水で溶いて温めたりせずにそのまま赤ちゃんにあげます。初めはかなり衝撃を受けました。
ジョブス
CLS取得後のプランとは?
ジョブス
唯さん:小児科看護師の仕事もとても好きなので少し迷っているところはありますが、CLS取得後は日本に帰国して日本でCLSとして働けたらいいなと思っています。
可能であればCLSがいない病院で新たにチャイルドライフプログラムを立ち上げられたらいいですね。
将来的にはまだ具体的なことは考えていませんがCLSを広めていく活動をしていきたいと思っています。
ジョブス
CLSを取得を目指す看護師へ
ジョブス
唯さん:アメリカ留学が必須ということもあり、CLS資格取得へのハードルは決して低くはありませんが、CLSになるために学んだことは看護師としても活かせることばかりで、看護師としてもステップアップに繋がります。
看護師として夜勤ありの忙しい生活から少し離れてアメリカで生活するのもとても楽しいです。
日本にはもっともっとCLSが必要だと思うので、一緒に頑張れたら嬉しいなと思います。