緩和ケア病棟とは、主にがん患者の終末期における様々な苦痛を緩和することを目的とした専門の部門です。
がんは、日本人の死亡原因の1位を占めており、3人に1人ががんで亡くなるという現状の中、緩和ケアはなくてはならない医療部門の一つです。
緩和ケアは一般病棟とは異なる特殊な病棟ですが、看護師にとってこの部門は働き続けるのに魅力的なのでしょうか?
この記事では、緩和ケアへの異動を考えている方や、スペシャリストになる為の専門領域を探している方に向けて、仕事内容やお給料などを解説します。
みき
めぐみ
ジョブス
緩和ケアとホスピスケアとの違いとは?
日本においては、緩和ケアとホスピスケアに大きな違いはなく、基本的に同義として扱われます。
また、日本人の死亡原因の最たるものががんであることから、主に終末期のがん患者が緩和ケアのメインになります。
ただし、海外と比較すると緩和ケアとホスピスケアには違いがありあります。
例えば、アメリカの場合、緩和ケアは余命に関係なく提供され、ホスピスケアは6ヶ月以内の余命宣言を受けた人に提供されます。
確かにWHOの定義としては、緩和ケアとは終末期だけではなく早期からの緩和ケアを行うものとしていますが、各国の医療制度や死亡原因の違いによっても解釈は異なります。
緩和ケア=がんの終末期、というイメージが主流ではあるものの、日本でも、がんであると診断され告知された時点から、緩和ケアが始まるという流れに変わってきています。
ターミナルケアと看取りケアとの違いとは?
ターミナルケアと看取りケアの違いは医療対応か介護対応かどうかです。
- ターミナルケア
- 看取りケア
病院で痛みを抑える緩和ケアを中心に行う
自宅や介護施設で介護ケアを中心に行う
介護保険には看取り介護加算があるため、介護施設の半数以上が終末期の入居者に対して看取り介護を行っています。
これは病院のように医師が常駐する必要がないので、実施しやすいことが理由です。
みき
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緩和ケアを行う3つの施設形態とは?
緩和ケアと言っても、緩和ケアを提供する施設形態は様々です。
基本的には3種類に分けることができます。
- 院内病棟型(最も多い)
- 院内独立型
- 完全独立型
一般病棟として緩和ケア病棟を持つ病院
病院の敷地内に、独立した建物として緩和ケア病棟を持つ病院
緩和ケア専門の病院(主に20〜30床程度)
緩和ケア診療加算の届出をして緩和ケアチームとして行っている病院や、届出を行っていないが緩和ケアチームがケアを行っている病院もあります。
東京都内ですら緩和ケア病棟を有する病院はがん研究有明病院や聖路加国際病院をはじめとした31院しかありません。
最近ではケアミックス型の病院も少しずつ増えてきましたが、まだまだ緩和ケアを専門に働きたいと言っても勤務先は少数です。
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緩和ケア病棟での仕事内容と役割とは?
緩和ケア病棟の仕事内容は、「症状緩和ケア・精神的ケア・チームケア」の3つに分けられます。仕事内容や役割について詳しく解説します。
1、症状緩和に関する仕事
- 症状の観察、アセスメント
- 症状コントロールなどの対症療法
- 日常生活援助
緩和ケア病棟に入院している患者は、がんによる疼痛や吐気、全身倦怠感といった様々な症状により、日常生活が苦痛にあふれています。
緩和ケア病棟では、それらの苦痛症状を緩和し、少しでも穏やかに過ごせるような症状コントロールを図るので、症状の観察やアセスメントは非常に重要になります。
症状緩和のために鎮痛剤や麻薬を使用する機会が多く、どのタイミングで使用すれば有効であるか、薬効や使用方法などの専門的な知識や判断力が求められます。
さらに、終末期には症状の進行や体力低下によりADLの低下をきたすため、基本的な看護技術を十分備えた上で、より患者の苦痛を軽減でき安楽に行う技術が必要です。
2、精神的ケアに関する仕事
- 訴え・思いの傾聴
- 意思や価値観を尊重した関り
- 家族支援
終末期の患者は、持続する身体的苦痛やこれから迎える死に対する恐怖を抱えています。
そのため、患者の意思や死生観についてもじっくりと傾聴する必要があります。
患者の意思や価値観を尊重した治療方針を決定していくためにも、意思や死生観について聴くことは非常に重要になります。
患者の家族にとっても「もっとできる事があったのではないか」「これで良かったのか」など、あらゆる後悔の念や無念さがこみあげてきます。
患者の生存中から死別後に至るまで、家族のサポートやケアを行うことも、緩和ケア病棟で勤務する看護師の大切な役割です。
3、チーム医療に関する仕事
- 職種間の情報共有
- 多職種によるカンファレンス
- 職種間の連携・調整、コーディネーター
緩和ケア病棟では、医師や看護師の他にも、栄養士、薬剤師、リハビリスタッフ、ソーシャルワーカー、病院によっては臨床心理士や心療内科医など、多くの職種が関りチーム医療を展開しています。
緩和ケア病棟に入院しているものの、いよいよ最期は自宅での看取りを希望された場合や外泊の希望があった際には、地域の訪問看護やホームヘルパーといった介護スタッフ、かかりつけ医など院外のスタッフとの連携も必要になります。
職種間の情報共有やカンファレンスを行い、患者の意思や方針を共有すると共に、それぞれの職種との連携や調整など、より良いケアを実践できるようコーディネーターとしての役割も求められます。
みき
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緩和ケア病棟のお給料と手当とは?
緩和ケアと言っても、特別な手当があるわけではないので、他の診療科で働く看護師と大きな差はありません。
以下は、看護師の平均的な給与と年収になります。
- 平均給与:333,900円
- 平均賞与:799.900円
- 平均年収:4,806,000円
病床規模と給料は比例するため、完全独立型の専門病院よりは急性期病院の方が給与水準や手当は高く設定されています。
また、緩和ケア認定看護師の資格があれば月に5,000円程度の資格手当をもらうことができます。
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みき
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緩和ケア病棟はこんな人に向いている
終末期の患者に寄り添う緩和ケア病棟で勤務するには、どのようなタイプの看護師が向いているのでしょうか。
- じっくり患者と向き合う事が好き
- きめ細やかなケアが得意
- 精神的なタフさがある
- 他職種との連携や調整が苦にならない
緩和ケア病棟では、主に終末期の患者を対象としているため、身体的な苦痛症状ばかりではなく、死への不安といった精神的、スピリチュアル的な苦痛も伴います。
苦痛症状を軽減するための症状コントロールを図ったり、死へ向かう患者の意思や不安などの訴えを傾聴するためには、じっくりと患者と向き合い寄り添うことが大切です。
時間をかけて密に患者と接することが好きなタイプの人には向いている分野です。
また、いかに苦痛を軽減できるか、個別性に応じたきめ細やかな看護技術やケアを要する分野なので、普段から細やかな観察力や繊細な配慮ができる人のほうが良いでしょう。
身体的にも精神的にも、また、社会的、スピリチュアル的な苦痛や不安を抱えているので、それらを共感し受け止め対応できる強さ、死に直面する日常に耐えられる精神的なタフさも必要になります。
- コミュニケーションが好きではない
- 気持ちの切り替えが苦手
- 患者の家族との関りが苦手
- 処置や検査の介助が好きで最先端の医療に携わりたい
患者の思いは、日々変化することも多く、さらに死への大きな不安や増強する症状による苦痛も伴うため、患者に寄り添い密なコミュニケーションを図ることが重要となります。
じっくりとコミュニケーションを図ることが好きではないタイプの人には向いていない分野です。
また、死を目前にし強いストレス下に置かれた患者や家族から、暴言や不満を吐き出されることもしばしばあります。
急性期であれば、症状や治療が辛くても回復に向かっていると思えるからこそ、頑張れる、耐えられる、といった面がありますが、緩和ケア病棟は、症状が辛くても、どれだけ我慢して耐えても、回復が望めない症例ばかりです。
これらを受け止めケアに活かせることができれば良いのですが、時には受け止め過ぎて自分自身も辛くなってしまったり、力不足と感じて燃え尽きてしまう看護師も少なくありません。
気持ちの切り替えが苦手なタイプの人には、辛い環境の職場になってしまいます。
みき
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緩和ケア病棟のメリットとデメリットとは?
緩和ケア病棟で勤務すると、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。それぞれについて詳しく解説します。
メリットと良い口コミ
- 1人の患者に十分な時間をかけて関われる
- 延命治療を行うわけではないので残業が少ない
- 看護へのやりがいを感じられる
緩和ケア病棟は、比較的ゆったりと時間が流れているので、患者と丁寧に関わることができるのが良いです。じっくりと腰を据えての関わりは、急性期の病棟ではなかなかできないので、緩和ケア病棟ならではだと思います。
元気に退院する患者はいなく、亡くなる方ばかりですが、患者にとって何が最善か何を望んでいるのかを考えながら看護ケアを実践できます。最期の時まで、患者やご家族と時間や思いを共有できますし、看護を行っているというやりがいが感じられます。
緩和ケア病棟は、急性期の病棟の様に積極的な治療を行わないので、処置や検査・手術に追われる忙しさはありません。
苦痛症状に対する緩和ケアがメインとなり精神面でのケアも十分に行うので、1人の患者にじっくりと時間をかけて接することが可能です。
患者や家族が望むように最大限でき得るケアを提供できますし、その人らしさを尊重した看護が実践できるのも、緩和ケア病棟の特色です。
一般病棟では制約がありできないことも、緩和ケア病棟では可能なことが多く、患者一人一人に応じた看護について深く考え追求できるためやりがいを感じられます。
デメリットと悪い口コミ
- 感情のコントロールができないと継続して働くことができない
- 燃え尽き症候群になる可能性がある
- 最新の医療を学ぶ機会が少ない
緩和ケア病棟は終末期の患者が入院しているため、看取りは日常茶飯事です。それに、患者の辛い思いを聞くことも多いし、自分自身のメンタルも一緒に辛くなってしまいます。
患者と密に関わって、その時できる最善のケアを行っているつもりですが、患者が回復することはないですし、もっと良い看護ができたのではないかと考えると、後悔や無念さがこみあげてしまいます。
緩和ケア病棟での看護は、回復過程を援助するものではなく、症状コントロールのような対症療法やその人らしく最期を迎えるための支援がメインとなります。
死に直面する場面は、他の病棟よりも圧倒的に多く、死への不安や葛藤といった死生観に対する患者の訴えを聴く機会が多いという特徴もあります。
辛い思いをする患者や家族と接し共感するあまり、看護師自身も精神的なストレスが非常に高まりやすく感情のコントロールができなくなりがちなので、辛すぎて働き続けるのが難しくなってしまう看護師も多くいます。
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まとめ:患者に寄り添い密な関りを持ちながら、緩和ケアのスキルを高めよう!
主に終末期のがん患者を対象とした緩和ケア病棟では、患者や家族に寄り添い、その人らしく最期を迎えるための援助を行います。
また、身体的苦痛に対する症状コントロールやより安楽な日常生活援助方法などのスキルの習得が可能です。
真正面から死と向き合うことは、看護師自身にとっても辛く精神的負担が大きくなりがちですが、終末期の援助を行う大切な役割とやりがいがある部門です。