消化器内科では、食道から胃、小腸、大腸へと続く消化管と、肝臓、胆のう、胆管、膵臓を扱い、消化器全てを対象としています。
幅広い疾患を扱うため、看護師にも多くの知識や技術のスキルが求められる診療科です。
網羅的な専門性が求められる消化器内科ですが、看護師にとってこの診療科は働き続けるのに魅力的な科目なのでしょうか?
この記事では、消化器内科への異動を考えている方や、スペシャリストになる為の専門領域を探している方に向けて、患者ニーズや仕事内容、お給料などを解説します。
みき
めぐみ
ジョブス
消化器内科とは?患者ニーズと消化器外科との違い
消化器内科は、消化器全てを対象としており、外科的手術が適応とならない消化器疾患を診療する、内科の専門科の一つです。
内視鏡の検査や治療の進歩と普及により、胃潰瘍や大腸ポリープ、総胆管結石除去のように外科的手術を行わずに内視鏡で治療が可能な疾患も多くあります。
内科ではありますが、内視鏡後の観察や看護ケアは、外科的処置に準ずるスキルを求められますし、緊急手術が必要となる症例も多く、迅速な判断や機敏な動作が要求される診療科です。
また、がん全体のおよそ60%は消化器のがんが占めており、消化器内科ではがんに対する治療や看護も多く行われています。
消化器外科との違いとは?
消化器内科も消化器外科も、どちらも消化器疾患を対象としていますが、大きな違いは手術があるかないかです。
手術の適応となる消化管疾患は、消化器外科での診療となります。
他の診療科で消化器のがんが判明し手術の適応となった場合に、消化器外科へ紹介・転科するといったパターンが多いです。
また、消化器内科で内視鏡治療を試み、それでも切除しきれなかった腫瘍や止血不能な胃潰瘍などさらに手術が必要な場合に、消化器外科へ紹介されることもよくあります。
消化器内科と消化器外科は、消化器疾患を扱う診療科同士、密な連携が必要とされます。
総合病院とクリニックの科分け
- 消化器科
- 消化器内科・消化器外科
総合病院などの大規模病院で「消化器科」と表記されている場合は、ほぼ消化器内科を指しています。
消化器外科がある病院では、消化器内科、消化器外科と分けて表記していることが多く、消化器内科と消化器外科を併せた「消化器センター」を設置している病院もあります。
また、消化管をメインとした胃腸系と、膵・胆・肝系を細分化してある病院もあります。
- 内科・消化器内科
- 内科・胃腸科
- 内科・胃腸科内科
クリニックでは内科単独の表記も多いですが、消化器内科の専門医が在籍している場合は、消化器内科も併せて掲げています。
「胃腸科」「胃腸科内科」との表記をされているクリニックもあります。
みき
めぐみ
ジョブス
消化器内科の仕事内容と役割とは?
消化器内科では消化器疾患全てを扱うので、対象となる疾患や症状、治療方法は多岐にわたります。
そのため、消化器内科で勤務する看護師には幅広い知識や技術が求められます。
主な仕事内容や役割について見ていきましょう。
1、化学療法・放射線療法に関する仕事
- 化学療法・放射線療法についての説明・診療の補助
- 全身状態や副作用の観察・ケア
- 緩和ケア
- メンタル面のケア
消化器のがんが判明した場合、外科的手術が適応となる症例は、消化器外科へ転科となります。
したがって、消化器内科での化学療法や放射線療法は、外科的手術の必要がなく化学療法による治療が効果的、もしくは手術不能な進行がんです。
消化器のがんの症状は臓器により様々ではあるものの、食欲不振や吐気・嘔吐、吐下血、疼痛が代表的であり、それらに加えて化学療法の強い副作用でさらに消化器症状が増強します。
そのため、それぞれの症状や副作用に応じた症状緩和のケアは必須です。
また、がんという疾患や予後への不安や、化学療法のように非常に大きな苦痛を伴う治療に対しての不安もあるため、メンタル面のケアを含めたがん看護は重要になります。
2、内視鏡検査・治療に関する仕事
- 内視鏡検査・治療についての説明・診療の補助
- 副作用、合併症の観察・ケア
- ドレーンやチューブ類の管理
内視鏡は、消化器内科ではよく行われている検査・治療です。
観察や容易な組織検査である生検を行う検査としての内視鏡から、早期悪性腫瘍の切除や経鼻胆管ドレナージといった治療まで多岐にわたります。
内視鏡は、苦しそう・辛そうとの印象を抱かれがちなので、内視鏡についての十分な説明を行い、少しでも不安を緩和できるような配慮が必要です。
さらに内視鏡治療後の副作用や合併症の観察、ドレーン類の管理により、治療の効果が最大限となるようケアを続けることも大切な看護になります。
3、栄養指導・生活指導
- 従来の食事状況や嗜好、生活習慣の情報収集
- 食事制限や補助食品などの指導・サポート
- 栄養士やNSTとの連携
食事制限や栄養指導が必要となる疾患は多くありますが、中でも消化器内科疾患は、食べることがそのまま疾患に直結するため、食事制限や栄養指導は欠かせない生活指導です。
看護師のみではなく栄養士や栄養サポートチーム、NSTと連携し、最適な栄養摂取方法や指導を行う事が重要なケアとなります。
消化器内科の対象疾患
消化器内科では以下の疾患を扱っています。
- 食道腫瘍(良性、悪性)
- 食道胃逆流症(GERD)
- 食道アカラシア
- マロリーワイス症候群
- 胃腫瘍(良性、悪性)
- 胃潰瘍
- 急性胃炎
- 慢性胃炎
- 機能性胃症(Functional dyspepsia)
- Malt lymphoma
- 悪性リンパ腫
- 十二指腸潰瘍
- 肝機能障害
- 肝硬変
- 自己免疫性肝炎
- 小腸腫瘍
- 小腸出血
- 大腸腫瘍(良性、悪性)
- 腸閉塞
- 炎症性腸疾患
- 消化管出血
- 急性腹症
- 肝炎(急性、慢性)
- 肝機能障害
- 肝硬変
- 自己免疫性肝炎
- 原発性胆汁性肝硬変
- 脂肪肝
- アルコール性肝障害
- 非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)
- 肝臓腫瘍(良性、悪性)
- 胆石症
- 胆嚢腫瘍(良性、悪性)
- 急性膵炎
- 慢性膵炎
- 膵臓腫瘍(良性、悪性)
- 門脈圧亢進症
- 腹水
- 腹膜腫瘍
消化器内科の対象となる臓器は、食道・胃・十二指腸・小腸・大腸・膵臓・胆のう・肝臓と多いことから、扱う疾患も多く幅広い領域に及びます。
胃炎のような比較的軽症な炎症性疾患から急性膵炎のように重症化のリスクが高い疾患、胃潰瘍や肝硬変と、疾患も病態も重症度も様々です。
また、消化器内科にはがんも多く、がんの部位別死亡順位で見ても「気管支および肺」に次いで、「胃がん」、「大腸がん」が多くなっていることからも、がん看護は必須です。
消化器内科の検査内容
消化器内科では以下の検査を行います。
- 胃内視鏡
- 大腸内視鏡
- エコー
- 超音波内視鏡検査
- 経皮経肝胆道造影検査
- 内視鏡的逆流性胆管膵管造影検査
- 腹部血管造影検査
消化器内科でも、他の診療科と同様に採血やレントゲン・CTなどの画像診断はよく行われています。
消化器内科で特徴的な検査に、内視鏡検査があります。
ほとんどの消化器を検査できる上に治療を行うことも可能な内視鏡検査は、検査自体の苦痛が非常に強いだけではなく、絶食や下剤服用といった前処置にも苦痛を伴います。
検査や前処置に対しての十分なオリエンテーションや不安の軽減、検査前・中・後の苦痛の緩和など、内視鏡担当部署と連携したケアが大切です。
みき
めぐみ
消化器内科でキャリアアップするには?
幅広い知識や高い専門性が求められる消化器内科で、より活躍するには、栄養サポートチーム専門療法士や消化器内視鏡技師といった様々な資格を取得してキャリアアップする方法があります。
- 栄養サポートチーム専門療法士
- 消化器内視鏡技師
- 日本口腔ケア学会認定資格
- 日本摂食炎嚥下リハビリテーション学会認定士
これらの中から、消化器内視鏡技師資格について詳しく見てみましょう。
消化器内視鏡技師
消化器内視鏡技師とは、日本消化器内視鏡学会による認定資格です。
消化管内視鏡検査・治療の介助をはじめとし、機器の洗浄・消毒といった取り扱いや管理を行い、内視鏡診療には大変重要な資格です。
消化器内視鏡技師資格は、年に1回、3月に学術試験が開催され5月に合否の通知があります。
受験資格は次のとおりです。
- 看護師(助産師・保健師含)、准看護師、衛生検査技師、診療放射線技師、臨床工学技師、
臨床検査技師、薬剤師のいずれかの医療資格を保有している- 内視鏡学会専門医の指導のもと、消化器内視鏡部門で実際に内視鏡に従事した勤務年数が申請時点で満2年以上であること
- 日本消化器内視鏡技師会・支部主催の医学講習会、又は勤務先の内視鏡学会専門医から、医学講義を20時間以上受講していること
- 申請時までに、日本消化器内視鏡技師会・支部主催の消化器内視鏡技師研究会又は技師学会に、2回以上出席していること
- 申請時までに、日本消化器内視鏡技師会支部長承認の内視鏡機器取扱講習会(基礎編)に1回以上出席していること
実際に処置具を持って医師の介助を行い検査や治療に大きく関わるため、難易度の高い手技を実施できる高度なスキルが求められます。
内視鏡技師は看護師に特化した資格ではなく、診療放射線技師や臨床工学技師といった職種の資格取得も可能なため、看護師以外が内視鏡技師として活躍する病院も多数あります。
ですが、患者の状態観察や苦痛の軽減、不安の緩和などを必要とされ、看護の力が求められる現場です。
みき
めぐみ
ジョブス
消化器内科の勤務先とお給料は?
消化器内科で働く場合、どのような規模の病院があるのでしょうか。また、お給料についても、他の診療科と違いがあるのか見てみましょう。
- 大学附属病院
- 総合病院
- 個人クリニック
どの病床規模だろうと消化器内科の診療科は扱っています。
消化器内科の専門科がない病院であっても、消化器疾患は患者数が多い領域なので、消化器内科の専門医が在籍している病院がほとんどです。
消化器内科には特別な手当があるわけではないので、他の診療科で働く看護師と大きな差はありません。
ただし、病床規模と給料は比例するため、個人クリニックよりも大学附属病院の方が給料は高く設定されています。
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みき
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ジョブス
消化器内科で働く看護師から聞いた現場の口コミ
良い口コミ(メリット)
大腸ポリープ切除のための1泊入院の患者さんから、継続して抗がん剤治療をしている患者さんまで、入院目的や期間は様々ですが、日々良い緊張感で働くことができています。
消化器内科病棟では、基本的な疾患看護から退院支援やターミナルケアまで、あらゆる状態にある患者さんの幅広い看護が学べ、やりがいがあります。
肝臓疾患や膵臓疾患の患者さんは入退院を繰り返すことが多くて、自宅での生活を考えての指導を行う機会も多いので指導のスキルが培われます。悪性疾患の患者さんも多く、精神的な支援もできるように日々チームで取り組んでいるのでチーム医療も学べます。
消化器内科では、対象となる臓器や疾患が多種多様であることから病態・ステージも様々であり、急性期から慢性期、終末期看護、がん看護が幅広く学べる分野です。
また、化学療法や内視鏡治療が頻繁に行われているため、副作用や合併症の観察、対症療法のスキルが身に付きます。
さらに、慢性疾患や悪性腫瘍で入退院を繰り返したり長期入院となる場合も多く、食事制限などの生活指導や患者家族への精神面のケアも大切な看護になります。
悪い口コミ(デメリット)
消化器の病棟では、疾患の種類が多くて処置や検査も色々なので、次から次へと覚えることがたくさんあります。緊急入院も毎日のようにあるため、忙しくて残業ばかりで定時には帰れません。
吐物や吐下血が多くて何かと感染のリスクが高いです。
消化器内科は、患者さんが多いですし中でもがん患者さんが多いです。緩和ケアなどを学べるのは良いのですが、終末期の患者さんのケアや看取りを行うこともよくあるので、仕事とはいえ自分も辛くなってしまいます。
消化器内科は幅広く多くのことを学べる反面、必要な知識やスキルも多くなりそれらの習得に大変さを感じる看護師も多くいます。
さらに、患者数も多い診療科なので、緊急入院や急変も毎日のようにあり残業も多くなりがちです。
また、終末期を迎えるがん患者も多く、ターミナルケアや看取りを行う機会も頻繁にあるので、精神的にまいってしまいがちな面もあります。
こんな看護師が向いている
- じっくりと患者に向き合うことが得意
- 学ぶことが好き
- 臨機応変に対応できる柔軟さがある
消化器疾患全てが対象となる消化器内科は、基本的な内科の基礎知識から化学療法や内視鏡治療のような高度な治療まで、幅広いスキルが必要になるため、常に学ぶ姿勢が必要とされます。
また、消化器内科では外科的手術を行わないものの、内視鏡治療を行う症例も多いため内視鏡後の観察やケア、ドレーン類の管理など外科的手術に準じた看護が求められます。
一方、慢性期や終末期の患者も多く、じっくりと関わり寄り添うケアも必要となり、多様な症状やステージに対して幅広く臨機応変に対応できる柔軟さも大切なスキルの一つです。
みき
めぐみ
まとめ:多くの臓器が対象の消化器内科。幅広いスキルを身に付けキャリアアップを目指そう!
消化器内科では、消化器全てが対象であり多くの疾患を看ることになります。
そのため、幅広い知識や技術を身に付けることができ、スキルアップを図るには最適な診療科です。
患者数も多く忙しい現場が多いですが、消化器内科で習得したスキルは、今後どの診療科へ異動になった場合でも活かすことができるでしょう。