医学や技術の進歩によって、医療の世界は目覚ましい発展を遂げています。
ひと昔前までは大きな危険を伴っていたことも、近年ではより安全に行うことができるようになった、ということも多いでしょう。
しかし、医療は完全ではありません。そして働くスタッフも完全ではないのです。人間は誰でも失敗を起こす可能性がゼロではありません。
そのため、少しの不注意で医療事故が起こってしまうのです。
医療現場では少しのミスが医療事故に発展してしまう場面に遭遇した人もいるでしょう。あるいは大きなクレームに発展することもあるかもしれません。
KYTという言葉を聞いたことがありますか。若手だと学生時代に勉強して記憶に新しい人もいると思います。
しかし、看護学校の授業でKYTを取り入れたのも最近ですし取り扱っていない学校もあるでしょう。
総合病院では病棟内の勉強会や院内研修でKYTを扱うこともあります。それだけ、医療安全が重要視されているのです。
KYTを初めて聞いた時に「空気読めない」と思った人はいませんか。KYTは「空気読めない」の略ではなく、「危険予知トレーニング」の略です。
危険予知トレーニング(KYT)の目的と意図
毎日の業務のなかで、実は様々なところに危険は潜んでいます。しかし、それを完全に予知することは容易ではありません。
危険予知トレーニングとは、事故や災害を未然に防ぐことを目的としています。
もともとは建設現場で使われていたもので、作業現場に潜む危険を作業員で話し合い、指摘し合って危険を未然に防ぐ対策をとるというものでした。
近年医療現場でのKYTが注目されているのは、医療事故から訴訟になるケースが増加していたからです。
未然に危険を予知して対策することで、医療事故を減らそうとKYTが取り入れられました。
「人間はミスを犯す」
というのがKYTの大前提です。
「何かがおかしい」
「あれは危険じゃないかな」
と感がることや気づくことが、医療現場では重要になります。
KYTではどのような危険が潜んでいるかを考えて気づくという感受性を持つことが大切だと考えます。
危険予知トレーニングを繰り返すうちに、日常業務の中で危険に対する感受性が高まり、
「あれってき危険じゃないかな」
「これ、いつもと違う(何かおかしい)」
と気付くようになるでしょう。
危険予知トレーニング(KYT)の手順
では、危険予知トレーニングの手順を説明します。
ある場面や状況がわかるものを用意する
これは、イラストでも写真でも構いません。
動画やビデオでもいいです。この場面や状況がわかるものを「KYTシート」と呼びます。
その場面に潜んでいる危険を考えストーリーで説明する
グループを作り、KYTシートの中に潜んでいる危険を考えます。
グループは話し合いをしやすいように4~6人程度が理想でしょう。
この中で、話し合いを進めるリーダーと書記を決めます。リーダーは経験年数に関係なく決めるのがいいでしょう。
新人看護師がリーダーを務めるのもいいかもしれませんね。
KYTシートの中に潜んでいる危険を
「…なので…が起こる」
「…なので…する」
といったようにストーリーで説明します。
例えば、寝たきりの患者さんのベッド柵がない状態を指摘するときに、
「ベッド柵がない」
ではなく、
「ベッド柵がされていないので患者さんが転落する危険がある」
といった感じで、ベッド柵がされていないことで起こり得る危険も説明します。
人によっては
「ベッド柵がされていないので患者さん家族からクレームがくる」
と説明する人もいるかもしれません。
正解があるわけではないので、これもOKです。
クレームだって危険のひとつですから。皆で共有することで、気付くことが大切なのです。
同じ看護師であってもベテランナースはベテランの視点が、新人は新人の視点があります。
異なる視点で危険を指摘しあうことで、お互いに新しい視点を取り入れることができます。
挙げられた危険の中から項目を絞り、対策を話し合う
グループで話し合いをすると、意外と沢山のストーリーが出てきます。
その中から、項目を1つに絞ります。より深く危険に対する考えを話し合うためです。
多数決という手もありますが、グループの皆が何に関心を示しているかや、その病棟でよくあるヒヤリハットに則したものがいいですね。
ここで絞られた項目ついて、自分ならどう対処するかをメンバーで話し合います。
発言力の強い人が主張するのではなく、全員が発言できるようリーダーが問いかけます。
ここで注意するのは、誰かの意見を否定しないということです。
明らかに病院のルールに則していない、倫理的に問題があるということならまずは助言しましょう。グループの話し合いで相手を否定したり攻撃したりすると話し合いにはなりませんから。
グループの目標を決定する
ここまでくると、グループの中で考えの方向性が見えてくるでしょう。
③で挙げた対策を参考に、グループの行動目標を決めます。「…のために私たちは行動する」という具合に、具体的な目標を立てましょう。
職場で危険予知トレーニングをする場合、多くはいくつかのグループに分かれてトレーニングを行います。
ここまではグループでの作業でしたが、最終段階としてグループの代表(リーダー)がグループの話し合いの概要と、行動目標を発表します。
発表を聞くと、自分たちのグループと同じような目標のこともあれば、また違った視点の目標のこともあります。いろいろな視点で見ることで危険に対する考えも幅広くなるでしょう。
まとめ【職場の安全風土作りにもなる危険予知トレーニング】
危険予知トレーニング(KYT)は、一度やってみると実はシンプルで簡単なものです。元々は建設現場の安全対策として用いられたものですが、現在は様々な分野で用いられています。
医療が発展した現代でも医療事故は起こります。
システムの問題であることもあれば、ヒューマンエラーによるものもあります。「人間はミスをする」というのが危険予知トレーニング(KYT)の大前提です。
そのミスを未然に防ぐには、どこにどのような危険が潜んでいるかという危険に対する感受性を高める必要があります。それが、危険予知トレーニング(KYT)なのです。
危険予知トレーニング(KYT)は一人ではできません。必ずグループで行う必要があります。それは、様々な異なる視点で指摘しあうことに意味があるからです。1人では気付かないことも、他の人には気付くこともありますよね。そのため、複数人でトレーニングを行います。
看護師の世界ですと新人からベテランまで、幅広い年代がいます。グループ分けする時には経験年数を考慮しましょう。
忘れてはいけないのは、話し合いの時に相手を否定したり攻撃したりしないことです。先輩ばかりが話すのではなく、新人も意見が言えるよう配慮しましょう。
看護師業務をしていると、新人が意見を言いにくい雰囲気や、発言力の強い人の意見が通るということはありませんか。危険予知トレーニング(KYT)ではこれはNGです。トレーニングを通じて、平等に意見を言い合うことの出来る職場につながるといいですね。
トレーニングをやると日々の業務の中でも「あれって危険だよね」「これっていつもと違うんじゃない」と気付き、指摘し合うことができるようになります。安全な職場づくりを目指すという風土づくりに繋がります。
- 危険予知トレーニングは危険への感受性を高めるのに有効
- 職場の安全風土作りになる
- 話し合いでは相手を否定や攻撃しない
- 異なる意見や視点を知ることが大切
- みんなが意見を言えるようにする