呼吸内科が対応する肺とその周辺臓器は身体の重要器官であるため、病気が起こると命に関わるケースが多くなります。
内科の専門科でありながら、疾患の守備範囲が広く患者数も多いため、呼吸器を専門とする個人クリニックも増えています。
また、死亡原因の多くが肺や気管支に関わる疾患であることから、看護師が専門領域として学びたい分野でもあります。
時代ニーズのある呼吸器内科ですが、看護師にとってこの診療科は働き続けるのに魅力的な科目なのでしょうか?
この記事では、呼吸器内科への異動を考えている方や、スペシャリストになる為の専門領域を探している方に向けて、患者ニーズや仕事内容、お給料などを解説します。
みき
めぐみ
ジョブス
呼吸器内科とは?患者ニーズと呼吸器外科との違い
呼吸器内科は、外科的処置を必要しない、あるいは適応ではない呼吸器疾患が対象の内科の専門科です。
比較的新しい診療科に分類されますが、日本人の死亡原因の多くが肺や気管に関する疾患であることから今では大半の病院が専門科を有しています。
以下は、平成29年死亡原因の疾患順位ランキングになります。
順位 | 疾患名 |
1位 | 悪性新生物(ガン) |
2位 | 心疾患 |
3位 | 脳血管疾患 |
4位 | 老衰 |
5位 | 肺炎 |
6位 | 不慮の事故 |
7位 | 誤嚥性肺炎 |
8位 | 腎不全 |
9位 | 自殺 |
10位 | 血管性などの認知症 |
ランキングを見ると1位は毎年変わらず悪性新生物(ガン)ですが、実はガンを部位別で分けると肺及び気管支が最も多いのです。
また、5位の肺炎、7位の誤嚥性肺炎も呼吸器内科が担当する疾患になりますし、肺炎と誤嚥性肺炎を合わせた死亡数は3位の脳血管疾患を超える比率となっています。
このように、呼吸器疾患の患者数は増加しており、病院側も人員を増やしニーズが高まっている状況です。
呼吸器外科との違いとは?
呼吸器外科は、外科的処置を要する呼吸器疾患を扱います。
肺がんや縦隔腫瘍に対しての手術、膿胸や気胸に対しての胸腔ドレナージ、難治性の場合には手術適応となる場合もあります。
さらに、放射線療法や化学療法を併用することも多いため、ガンに対しての治療がメインとなりやすい傾向があります。
患者が直接呼吸器外科に訪れることは少なく、呼吸器内科との連携はもちろん、他の診療科や他院からの紹介といった形で受診するケースが多いです。
総合病院とクリニックの科分け
- 呼吸器科
- 呼吸器科・アレルギー内科
- 呼吸器内科・呼吸器外科
- 呼吸器内科
- 呼吸器外科
- 内科・呼吸器内科
- 内科・呼吸器内科・アレルギー内科
呼吸器内科と呼吸器外科が合わさって呼吸器科となっている場合や、それぞれ呼吸器内科と呼吸器外科と別々になっている場合、呼吸器内科はあっても呼吸器外科のない病院など様々です。
200床以下の小規模病院では呼吸器内科がないケースがありますが、300床を超える中規模病院では、呼吸器内科を持つ病院が多くなっています。
さらに、呼吸器内科では喘息の診療も行いますので、「アレルギー内科」と表記されている場合もあります。
内科クリニックでは通常内科全般を診療しますが、「内科・呼吸器内科」と掲げている場合は、呼吸器内科の専門医であることが多いです。
みき
めぐみ
ジョブス
呼吸器内科の仕事内容と役割とは?
呼吸器内科では、酸素療法や医療機器の使用が多くなる一方、症状緩和のケアやメンタル面のサポートなど役割は多岐に渡ります。
主な仕事内容や役割について見ていきましょう。
1、酸素療法に関する仕事
- 呼吸状態の観察、アセスメント
- 酸素マスク、鼻カニューレや酸素流量の管理
- 人工呼吸器の管理
どの診療科であっても酸素療法を行う症例は多いですが、特に呼吸器内科では、酸素療法が治療の主軸となることが多く大半の患者が酸素療法を受けています。
呼吸状態の悪化は、呼吸器疾患そのものの悪化を意味し急変に直結するため、酸素療法が適切に行われているか、呼吸状態に変化はないか、頻回な観察を行います。
さらに、人工呼吸器を使用している場合、全身状態の管理とともに機器の管理も必要となり、機器の知識や操作が必要になります。
気管挿管による人工呼吸器から、NIPPVのような気管挿管を必要としない非侵襲的喚起療法など多種多様な機器があるので、それぞれの取り扱いを熟知しておくことも求められます。
2、化学療法・放射線療法に関する仕事
- 化学療法・放射線療法についての説明・実施
- 副作用のケア
- 緩和ケア
- メンタル面のサポート
手術が適応となる場合は呼吸器外科での診療となりますが、手術の適応ではなく保存療法となる場合は、呼吸器内科の対応になります。
化学療法や放射線療法による副作用は大きく、加えてがんによる疼痛など患者さんの苦痛は強いため、症状緩和のためのケアが必要になります。
また、身体的な苦痛とともに不安も強くなるため、訴えの傾聴やメンタル面のサポートも欠かせません。
3、吸入や吸痰に関する仕事
- 吸入、ネブライザーの使用
- 吸痰、体位ドレージの実施
- 使用や実施方法の指導
呼吸器疾患の治療の一つに吸入やネブライザーがあります。
喘息の発作治療や予防、気管内の加湿や排痰には重要な処置となるので、薬剤や機器についての十分な知識を持つことが必要です。
また、痰の吸引や体位ドレナージ、スクイージングにより排痰を促すことも大切な処置の一つです。
呼吸器内科疾患は、喘息や慢性閉塞性肺疾患のように生涯治療が必要になる慢性疾患が多いので、これらの使用方法などを含めた生活指導も行われます。
みき
めぐみ
呼吸器内科の対象疾患とは?
呼吸器内科では以下の疾患を扱っています。
腫瘍性疾患 | 肺がん、縦隔腫瘍など |
感染症 | 肺炎、肺膿瘍、胸膜炎、膿胸、肺結核、非結核性抗酸菌症、肺真菌症など |
びまん性肺疾患 | 間質性肺炎、サルコイドーシス、過敏性肺炎、石綿肺など |
慢性閉塞性肺疾患(COPD) | 肺気腫、慢性気管支炎 |
気道系疾患 | 気管支喘息、咳喘息、びまん性汎細気管支炎、気管支拡張症など |
胸膜疾患 | 気胸、胸膜中皮腫など |
循環障害 | 肺高血圧症、肺血栓塞栓症、肺動静脈瘻など |
稀な疾患 | 肺リンパ脈管筋腫症、肺ランゲルハンス細胞組織球症、肺胞蛋白症など |
肺炎などの急性期疾患から肺気腫のような慢性疾患まで病態は様々です。
急性期の場合は、酸素療法はもちろん人工呼吸器や胸腔ドレーンといった処置を要する場合も多くなります。
慢性期では在宅酸素を導入することも多く、酸素の取り扱いや生活指導、地域の訪問看護師との連携なども必要になってきます。
肺がんなどの腫瘍性疾患では、放射線治療・化学療法から緩和ケアに至るまでそれぞれのステージに応じた看護が大切です。
呼吸器内科の検査内容とは?
呼吸器内科では以下の検査を行います。
- 胸部レントゲン検査
- 胸部CT検査
- PET-CT検査
- 肺機能検査
- 気管支鏡検査など
レントゲンやCTのように侵襲の少ない検査は、一般内科でも日常的によくある検査です。
消化器科で胃内視鏡検査が行われるように、気管支鏡検査は呼吸器内科ではよく行われる検査です。
前処置から検査に至るまで非常に苦痛が強い検査なので、検査のオリエンテーションによる不安の軽減や、苦痛が最小限で検査を受けられるような細やかな観察とケアが大切です。
呼吸器内科でキャリアアップするには?
呼吸器内科の看護師として、さらに専門性を高めキャリアアップをしたい場合、慢性呼吸器疾患看護認定看護師や3学会合同呼吸療法認定士の取得が挙げられます。
呼吸器内科の専門医は、他の内科の専門医と比較すると不足しがちなので、看護師がキャリアアップすることでより現場のレベルアップにもつながりやすく、活躍できる場は豊富にあります。
それぞれの資格について詳しく見てみましょう。
慢性呼吸器疾患看護(認定看護師)
特定の看護分野において、熟練した看護技術と知識を有し、実践・指導・相談の3つの役割を担います。
慢性呼吸器疾患看護の分野は、2012年から認定が開始され、2018年時点では全国に293人とまだ少ない人数です。
認定看護師になるには、認定審査を受験し合格する必要があり、認定審査の受験資格は次のとおりです。
- 日本の看護師免許を有する
- 5年以上の実務経験がある(そのうち3年以上は認定看護分野の経験が必要)
- 認定看護師教育課程を修了
教育課程は、2018年度は東京都が休校となっているため福井県のみとなっており、受講期間は8か月間です。
資格取得を目指す際には、病院を休職しなければいけいけませんし、教育機関が遠方となる場合は近くでアパート生活になるため、費用も期間もかかってしまいます。
多くの病院では、受講費の補助や通学期間中の給与の支給といった認定看護師取得の支援制度があるので、ご自身の病院の制度を確認しておきましょう。
3学会合同呼吸療法認定士
日本胸部外科学会・日本呼吸器学会・日本麻酔科学会の3学会の認定により取得できる資格です。
呼吸療法を習熟し、呼吸管理を行う医療チームの構成要員を養成し、かつそのレベルの向上を図ることなどを目的としています。
資格を取得するには、8月に東京で開催される認定講習会を受講してから、認定試験を受験する必要があります。
講習会の受講資格がある職種は、臨床工学技士・看護師・准看護師・理学療法士・作業療法士で、准看護師は3年以上、准看護師以外は2年以上の実務経験年数を要します。
さらに、過去5年以内に、認定委員会が認める学会や講習会などに出席し、12.5点以上を取得すると、認定講習会の受講が可能となり、認定試験の受験へとつながっていきます。
認定試験は、1996年から開始されていて合格率は60%前後です。2017年時点で、約47,000人の資格取得者がおり、そのうち約53.2%が看護師となっています。
みき
めぐみ
ジョブス
呼吸器内科の勤務先とお給料は?
呼吸器内科で働くには、どのような勤務先があるのでしょうか。また、お給料についても、他の診療科と違いがあるのかも見てみましょう。
- 大学附属病院
- 病床400床以上の大規模病院
- 病床300床以下の中規模病院
- 個人クリニック
病床規模によっては、内科はあっても呼吸器内科がない、呼吸器内科の専門医がいない病院もあります。
そのような病院では、一般的な内科として呼吸器内科疾患の診療も行うのですが、専門的治療を要する疾患や重症化している症例は大規模病院へ紹介・転院になることがあります。
慢性呼吸器疾患看護認定看護師資格を取得し、資格手当がある場合を除くと、呼吸器内科に特別な手当があるわけではないので、他の診療科で働く看護師と大きな差はありません。
ただし、病床規模と給料は比例するため、個人クリニックよりも大学附属病院の方が給料は高く設定されています。
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呼吸器内科で働く看護師から聞いた現場の口コミ
良い口コミ(メリット)
呼吸器内科では、人工呼吸器の取り扱いは日常業務です。ほぼ毎日、人工呼吸器に触れる現場なので、高度な医療機器である人工呼吸器の管理や看護についてのスキルを習得できます。
慢性期の疾患が多い上に、がん患者さんも多いため、がん治療の看護や緩和ケアについて学べます。
吸入や吸引など退院後も自宅で行う処置や在宅酸素など生活指導を行う機会が多いので、患者指導についてのスキルを身に付けることができます。
呼吸器内科で勤務するということは、人工呼吸器についてのエキスパートにもなれるということです。
人工呼吸器はどの診療科でも行いますし、苦手と思っている看護師も多いです。ですので、他の診療科へ異動になっても呼吸器内科で身に付けたスキルを十分生かすことが可能です。
さらに、がん看護や在宅での生活にむけての患者指導のスキルも高められます。
悪い口コミ(デメリット)
呼吸器内科は、大規模な総合病院や大学病院に集中していて、どんな病院にもある訳ではないので、呼吸器内科のスキルを磨く場が少ないです。身に付けたスキルを発揮する場が限られてしまいます。
呼吸器内科疾患の病態悪化は、生命にかかわる事態となりやすいので急変が多く、その分看護師のストレスも大きくなりがちです。
呼吸器内科疾患には、咳やくしゃみを介する空気感染、飛沫感染による感染性の疾患も多く、常に院内感染への対策が重要になり、自分自身も感染するリスクが高くなります。
一般内科や総合内科、クリニックでも、呼吸器内科疾患の診療は行うので、呼吸器内科の分野でのスキルアップを図ることは可能ですし、専門の資格を取得した後もスキルを発揮し活躍はできます。
ですが、専門的で高度な治療となると、呼吸器内科がある大規模病院へ紹介や転院する場合が多いので、より専門性の高い医療に携わりたい方には物足りなさを感じてしまいます。
また、呼吸状態の悪化の際には迅速な対応を求められ、常に感染と隣り合わせの現場となるので、素早い判断や行動、細やかな感染対策が必要になり、ストレスが大きくなりがちな現場です。
こんな看護師が向いている
- 医療機器操作に強い
- 些細な変化にもすぐに気付くことができる
- コミュニケーションが得意
呼吸器内科では、人工呼吸器をはじめとする酸素療法や胸腔ドレーンなど、機器の取り扱いが多いという特徴があります。
しっかりと自己学習をし経験を積むことで機器の取り扱い技術は向上しますが、元々機械に強い人の方が、機器に対しての苦手意識も低く、習得するのもより早くなるので向いています。
さらに、些細な呼吸状態の変化やちょっとした機器の不具合が、急変を招き生命に直結してしまう場合が多いので、それらの変化を見逃さない細やかな気付きが必要とされます。
そして、呼吸器内科には慢性閉塞性肺疾患などの慢性疾患も多く、入院が長期化したり、繰り返し入院することもよくあります。
長い経過をたどる患者さんとじっくり向き合えるコミュニケーション能力も重要になります。
みき
めぐみ
まとめ:ニーズが高まる呼吸器内科。専門性を高めるなら今!
呼吸器内科では、人工呼吸器の取り扱いやがん治療・緩和ケアといった専門性の高い看護を実施でき、さらに慢性呼吸器疾患看護の認定看護師などキャリアアップも可能です。
呼吸器内科のない病院でも呼吸器疾患の診療は行うので、身に付けたスキルを十分に発揮することも可能です。
今後もさらに呼吸器疾患の増加が予想され、呼吸器内科のニーズは高まります。ニーズが高い呼吸器内科で、ぜひ働いてみませんか。